いま、アフリカ・ケニアの農地や砂漠には、空が真っ黒に覆われる異常な光景が広がっている。5~7cmのバッタが大量発生し、1億匹もの群れを作っているのだ。
バッタの大量発生に遭遇したことがあるという東京農業大学教授の足達太郎氏はこう振り返る。
「西アフリカを、乗り合いバスで移動しているときのことでした。日没後、突然フロントガラスにバチバチと何かがぶつかる音がしたんです。
すると、わずかに開いている窓から、10cm近いバッタが無数に飛び込んできたのです。体に当たると、痛いほどでした」
1億匹のバッタの群れは、一日で約9万人分の作物を食べ尽くす。アフリカでは、バッタの大量発生を「神の罰」と呼ぶほどだ。
大量発生は数年ごとに起きるが、今年は国連食糧農業機関(FAO)が「前例のない脅威だ」と呼び掛けるほど深刻な事態になっている。なんと、1300万人がバッタのせいで食糧不足に悩まされているというのだ。
しかも、アフリカの政情不安により、被害の拡大は止まる様子がない。
「大量発生の被害に遭っているスーダンやエチオピアなどでは紛争が頻繁に起きています。そのため、紛争当事国の政府や国際機関が、食糧の不足している地域にそれを届けることができないのです」(足達氏)
アフリカで、なぜバッタが大量発生しているのか。
「一昨年から昨年にかけて、東アフリカで洪水をともなう大雨が続いたからです。バッタは、雨季の始まりを合図に一斉に孵化します。すると、大雨で草が枯れずに残っている場所に、大量のバッタが集まってくるのです。
このような高密度状態でバッタが数世代を過ごすと、性質が変化して獰猛になる。大群を作って長距離移動をし、あらゆる植物を食い荒らすようになるのです」
一昨年から昨年にかけてアフリカで起こった大雨は、「インド洋ダイポールモード現象」という異常気象が原因だ。
「アフリカに近いインド洋西部の海面水温が通常より高くなる一方で、インド洋東部の海面水温が通常より低下する現象のことです。多くの水分が大気中に蒸発して雨雲を作り、連日大雨を降らせます」(東京大学名誉教授・山本良一氏)
この大雨も、単なる自然現象とは言い切れない。むしろ、人間が引き起こした「公害」としての側面も強いのだ。
「地球温暖化が進めば、インド洋ダイポールモード現象も強くなります。そうなれば、バッタが大量発生する頻度も増えるでしょう」(山本氏)
人類が、石油や石炭を燃やして環境に負荷をかけてきたしわ寄せが、アフリカを苦しめている。